JTBは30年後の日本を予見していた?

雑記

「皆さんはアウトバウンドとインバウンドをご存じですか?」

 私が就職活動をする約10年前、1990年に就職活動をしていた当社専務がJTBの会社説明会に行ったときに投げかけられた言葉だそうだ。

 インバウンドといえば、日本に海外から旅行者がやってくることを指すが、この言葉が一般的に使われるようになったのはここ10年くらいの話だ。1990年代にインバウンドと言っても全く通じなかっただろう。

 というか、当時は日本に海外から旅行者が来ること自体が一般的ではなかった。今は中国をはじめとするアジア圏から大勢の観光客が来るが、20世紀末のアジア圏は発展途上で日本に大挙して観光にこれるような経済力をもっていなかったし、日本政府も海外からの旅行者を受け入れることへの関心は薄かった。

 対するアウトバウンドだが、私は専務からこの話を聞くまで聞いたことがない言葉だった。「アウトバウンドとインバウンド」という文脈で言われれば「イン」の反対の「アウト」だからインバウンドの反対の「日本から海外へ行く旅行」と察しはつく。だが、「海外旅行」という言葉で事足りるので「アウトバウンド」という言葉が普及することはないだろう。

 さて、JTBの方は冒頭の言葉を投げかけた後、一般に知られていなかったアウトバウンドとインバウンドのそれぞれの言葉の説明をし、

「今はアウトバウンドが盛んですが、これからはインバウンドに力をいれていかなくてはならない。」

と語ったそうだ。当時の専務はJTBは新たな商機として海外からの観光客を取り込むことを考えているんだなーと何気なく聞いていたそうだ。だが、

「今になって考えるとJTBは日本が今のような経済状況になることがわかっていたんじゃないか。」

と専務。どういう事ですか? と私が聞き返すと、

「海外旅行に出掛ける人が多いという国は経済状況がよくて国民が豊かである事に加え、旅行先の国よりもその国の貨幣の方が強いことが考えられるよね?」

「そうですね。」

自国の貨幣が旅行先の貨幣と比べて強い(価値が高い)場合、旅行先の国で買い物をする際に有利になる。1000円を1ドル1000円の時にドルに両替すれば1ドルだが、1ドル10円の時(1ドル1000円の時より円の価値が高い)に両替すれば100ドルになる。1000円が1ドルになるのか100ドルになるのかでは当然買い物の仕方もかわってくる。

「ということは、海外に出かける人が多い国でインバウンドを進めるのって難しいよね。海外から来る人にとっては物価が高い国ってことになるから、それでも来たいって思わせるような魅力的な観光資源とかがないと。」

専務は続ける、

「そんな状況でインバウンドにも力を入れていくってJTBが言っていたのは、海外に比べて日本の物価が安くなって日本に来やすくなる状況・・・つまり、経済力が諸外国に対して低下していく現在のような状況が来るって事を予見していたんじゃないかと思うんだよね。あの頃はバブル末期だったけど、ほとんどの人は今の好景気がずーっと上り調子で続いていく、悪くても現状維持だと思っていた頃だったから、JTBはそんな未来を予見しているのでは? というところに考えが及ばなかったけど。」

 なるほど。インバウンドって日本の観光資源の掘り起こしって側面ばかりみていたけど、「日本に金銭面で行きやすくなった」って側面も大きい。中国の方の爆買いも、日本にいい製品があるってことだけじゃなくて、手頃な値段で買えるからって面も大きい。

 国がインバウンドに力を入れるっていうことは、国際競争力が低下し、しかも、ちょっとやそっとじゃ競争力が復活しないことを見越してのことなのだろう。

 当時のJTBがどういう意図でインバウンドに力を入れると言ったのかはわからないが、専務が言う「未来予見説」も決して考えすぎという言葉で片づけられないように思えた。

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