タクシー会社で内勤をしている清水君から聞いた話。
彼の会社はタウンページに広告をだしていて、更新の時期になるとタウンページから連絡が来るそうだ。そんな彼のもとにNTTタウンページから電話がきたそうで。タウンページの契約更新にしては時期が早すぎる。何だろうと思い電話に出てみると。
「NTTタウンページの○○です。昨年はタウンページに広告を掲載していただいてありがとうございました。今回はタウンページの話ではなく、経営のお役に立ちそうなソリューションの紹介をさせていただきたくご連絡いたしました。」
なるほど、タウンページの案内ではなく営業の電話か。そういえば前回タウンページを更新した時もDMを300件くらい送ってくれるサービスを「お試し」ということで無料で使わせてくれたそうでNTTタウンページはタウンページの広告以外のところにも力を注いでいるようだ。
余談だが前回出来上がってきったタウンページをみたら広告がほとんどなくなっていて、余白が大半を占めているページが随分あったそうだ。市内のタクシー会社も数年前までは広告を競うようにだしていたのに、今広告を出しているのは彼の会社のみ・・・。社内では「次回は更新しなくてもよいのでは?」という声が大きいようだ。当然、タウンページの広告収入だけではNTTタウンページの経営は苦しいだろう。
それはさておき、電話口の営業マンは、
「もしよろしければパソコンの画面を共有して20分くらいお話しさせていただければと。」
と言葉をつないできたので清水君は、
「あー、20分くらいならいいですよ。」
普段なら「興味ないんで」と断る彼だが、以前、「お試し」でDMを使わせてもらったのでタウンページのソリューションの営業に悪いイメージをもっていなかったので快諾したそうだ。
その後、営業マンと清水君は日程と時間の調整をした。そして営業マンは、
「ありがとうございます。では、案内のメールを送るので清水さんのメールアドレスを教えていただきたいのですが・・・。」
と言ってきた。清水君は少し戸惑いを覚えつつ
「え? タウンページの広告を更新する時に画像などのデータのやり取りを、そちらの担当の方とメールでしていたんですが・・・。」
と返答。
「ああー、そうなんですか・・・。申し訳ありません。私のところにメールアドレスのデータが回ってきていないものでして。」
ソリューションを提供する企業なのにメールアドレスが共有されていない? ちょっと不信感を感じつつも清水君はメールアドレスを伝える。彼のメールアドレスは長いので口頭であまりいいたくないのだ。
「ありがとうございます。では、案内のメールを送らせていただきます。当日、よろしくお願いいたします。」
電話を切った後、清水君は急に不安に駆られ電話機の着信履歴を開き、今の電話番号をグーグル検索にかけてみる。よく「東京電力」や「NTT」を騙る営業電話が来るがその手の類なんじゃないかと思ったのだ。「タウンページへの広告掲載のお礼」と冒頭で言っていたが、タウンページを見れば、どの会社かが広告を出しているかなど誰でも調べることができる。しかも、広告にはご丁寧に電話番号まで書いてある。思い返せば話し方もたどたどしかったからテレアポのバイトのようにも思えてくる。
迷惑電話の電話番号の場合、電話番号で検索をかけると、迷惑電話のデータベースにひっかかる。
だが、先ほどの番号でヒットはしなかった。携帯電話からの発信であれば、まだデータの蓄積がされていない新しい番号からの発信とも考えられるが、先ほどの番号は固定電話の番号である。
うーんと考えていると先ほどの営業マンからメールが届いた。メールアドレスには「ntt」の文字があるが、アドレスはいかようにもつくれる。送られてきたメールの奥付にある住所でググってみると確かにNTTタウンページのビルだった。だが、奥付は何とでも書ける。
メールにはオンライン名刺がついていた。オンライン名刺のURLの下には「よろしければ名刺交換をお願いします」と書いてある。オンライン名刺のURLをクリックすると営業マンの名刺がでてきてオンライン名刺交換の案内が出てくる。だが、名刺なんてものはなんとでもつくれてしまう。もしかしたら、名刺交換をすることで、こちらの名刺から、こちらの情報を引き出そうとしているのではないか・・・。
清水君は疑心暗鬼にかれていた。以前、タウンページの原稿をやりとりした営業マンの名刺を持ってきて見比べる・・・。うーん、全く同じつくりだ。
メールの段階で名刺をつけてくるということは本物のNTTタウンページなのだろう。送られてきた名刺が偽モノである可能性もあるが、偽造した名刺を使って営業しているなんてことがNTTタウンページにバレたら大問題だ。「東京電力」や「NTT」を騙る営業マンでさえ名刺には「NTTの代理店の○○」や「東京電力の提携会社の○○」と書いてあり「東京電力」や「NTT」の名刺を偽造したものをだしたりはしない(だから素性を明かすのは商談のテーブルに相手がついたときである)。
疑い出したらキリがない・・・。当日のテレビ会議の場で全ては明らかになる。もし、ここまで「NTTタウンページの者」を装っていていて「実は関連会社のものです」「代理店です」ってきたらNTTタウンページにチクりをいれてやればいい・・・。これ以上の詮索は時間の無駄と思い当日の商談にのぞむことにした。
だが、清水君が疑いたくなるのも無理はない。経営を円滑にするためのソリューションを提供すると言っている会社が電話番号に匹敵する重要な顧客情報であるメールアドレスを共有していないのだから。
もし、営業マンが、
「以前、担当した者からメールアドレスは伺っておりますので、確認させていただきますと・・・。」
と言ってメールアドレスを読み上げてくれたらすぐに「本物だ!」と判断しただろう。例え、たどたどしい話し方をしていたとしてもだ。
大手企業を騙る詐欺メールや詐欺電話は巧妙さを増してきている昨今、受け手側は慎重になっている。疑いをもたれないような言動をしていかないと、例え本物だとしてても「偽物」と判断されては話もきいてもらえない。
また、メールで送られてきたオンライン名刺はテレビCMで「社内の名刺を一元で管理する」を売りにしているサンサンの名刺管理アプリを使っていたそうだ。清水君の名刺にはメールアドレスが書いてあるのでサンサンの名刺管理アプリを使っていれば当然メールアドレスも共有されているはず。つまり社内でサンサンの名刺管理アプリを使っていこうという意思疎通もできていない。
他社に経営を円滑にするソリューションを勧める前に、そのソリューションをまずは自社で運用し、円滑に商談に繋げれるようになくては。
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